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* 脱出不可能。
 

日時: 2007/09/09 01:36 メンテ
名前: ???

ここはとある国。
今この国ではあちこちで犯罪者が増え続け、刑務所を脱獄する犯罪者も出てきていた。

国中のあちこちの刑務所で脱獄者が後を立たないそんな時代に、唯一今まで一人の脱獄者も出した事が無いという刑務所があった。

なぜ脱獄者が一人も出ないのか。看守の人数が多いわけでもないし、監視カメラの数が多いわけでもない。この刑務所が脱獄者を出さない理由は別の所にあった。



ある日、その脱獄者が一人も居ない刑務所に一人の囚人がやってきた。囚人の名はフーンと言い、罪状は窃盗。スリ…空き巣…置き引きなどの行為を何回も繰り返し、被害者の数は60人以上にも上るという、とんだ犯罪者だ。

裁判の結果、懲役3年の刑が言い渡され…この刑務所にやって来たのであった。

「くそっ! サツのド畜生が!! こんな所で俺が大人しくしてると思うか! 絶対に脱獄してやるぞ、この刑務所を…」

フーンは牢獄の中で悪態を吐く。しかし彼には脱獄する作戦など無い。

「ちくしょう…あの時しくじらなければ捕まることも無かった……酒もタバコも無いこんな所で3年も居られる訳ねぇだろ…ちくしょうっ!!」

フーンは怒りに任せて牢獄の鉄格子の扉を思いっきり蹴飛ばした。すると…驚くべき事が起きた。なんと鉄格子の扉が軋むような音を立てて開いたのだ。あっさりと…

「えっ!? オイオイオイオイ…何だよ……開いたぜ! マジかよ!! きっと看守の野郎が鍵を閉め忘れて行きやがったんだ!!!」

牢獄から体を少し出して周りに看守が居ないかどうか確かめると、フーンは素早く牢獄を飛び出した。

「ハハハハ!! 手ぬるい監獄だぜぇ! 鍵を閉め忘れるばかりか見張りの看守も居やしねぇ!」
 
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* Re: 脱出不可能。 ( No.1 )
 
日時: 2007/09/09 01:38 メンテ
名前: ???

フーンは笑いながら長い廊下を一直線に駆け抜けた。そしてしばらく走った所に扉が二つあった。扉は狭い廊下の右側と左側に張り付くようにあった。ちなみにフーンはこのフロアに来る時、右側の扉から入ってきた。

フーンはまず、右側の扉を開けようとしたが開かない…続いて左側の扉を開けようとすると…すんなり開いた。

「やったぜ! よし…この扉の先はどうなってるのか知らねぇが、このまま外に出てやる」

そして…その扉を勢い良く開け放つと、そこには先ほどよりも広い廊下があった。廊下は途中まで真っ直ぐに伸びていて、途中で二つに分かれている。

「なんだこの場所は…」

フーンはそう呟いて周りを見渡すと、廊下の壁に張り紙がしてあった。その張り紙には赤い文字で『脱獄を企てる犯罪者へ告ぐ、直ちに戻るがいい…さもなくば、命は無い』と書かれていた。

「ちっ…こんな馬鹿げた張り紙がしてある所を見ると、このフロアは看守の目が行き届いているって事だな」

フーンは用心しながら廊下を歩き、分かれ道を右に曲がってみた。すると…そこには一つの大きな扉があり、その扉を開けると…次に出た場所はまた同じような廊下だった。

ただし今度は分かれ道が三つに増えていた。

「ちっ…迷路だな。まるで…ここで俺みたいな脱獄囚が迷っている隙に捕まえるってワケか」

フーンは溜息を吐いた。その時…廊下の隅の方に誰かが居るのが見えた。

「だっ…誰だ?」

看守かと思いフーンは瞬時に身構える。そこに居たのは…フーンと同じように囚人服を着た囚人だった。

「あ…あなたも…あなたも脱獄するんですか!?」

囚人はフーンに駆け寄ってきた。

「ああ、まあな…それよりここは何なんだ? このまま進んでいけば出口があるのか?」

フーンがそう言うと、囚人は少し黙り込み…話し始めた。
* Re: 脱出不可能。 ( No.2 )
 
日時: 2007/09/09 01:39 メンテ
名前: ???

「そうらしいですね…そうらしいんですが、ここを抜けるのが至難の業なんですよ……あっ…僕の名前はフサといいます。よろしくお願いします」

フサは勝手に自己紹介をすると更に続けた。

「実は…ここの廊下は進むに連れてどんどん分かれ道が増えていくんですが、どうやら聞いた話によると…『正解の道は一つだけ』らしいんです」

「正解の道は一つだけ?」

フーンはフサの言葉の意味が解らず、聞き返した。

「つまりですよ…例えばここには三つ分かれ道がありますよね。三つの通路の先にはそれぞれ扉があるんですが…次のフロアに続く扉は一つだけらしいんですよ…残る二つの扉は何だと思います?」

「な…なんだ?」

フーンは嫌な予感がした。入り口で見た張り紙の文面を思い出したのだ。『脱獄を企てる犯罪者へ告ぐ、直ちに戻るがいい…さもなくば、命は無い』という文面を……

「死刑台に繋がる扉ですよ……三つのうち二つは死刑台に続く扉…入ったら最後、すぐに刑は執行され…死ぬらしいです」

普段は極めて冷静なフーンの心臓が跳ね上がった。まさか…そんな事は……

「そ…そんな、聞いてないぞ…そんな事」

「僕も囚人仲間から聞いたんです。はじめは信じられませんでしたが…少し前にこのルートを通って脱獄しようとした囚人が死体袋に入って戻ってきた事があったんですよ」

フサは震える声でそう言う。彼の表情から見るに、冗談とは思えなかった。

「そ…そんな! デタラメだ!! ムチャクチャだろそんな事!」

フーンは思わず大声を張り上げてしまう。

「そうですね。僕だって怖いですよ…でも、僕は行かなきゃいけないんです。ここを脱獄して…娑婆に一人残してきた僕の恋人に会いたいんですよ」

そう言うと、フサは三本の道の真ん中を歩き出す。

「お…オイ!!」
* Re: 脱出不可能。 ( No.3 )
 
日時: 2007/09/09 01:40 メンテ
名前: ???

フーンは止めようとしたが、フサは聞かなかった。フサはそのまま真ん中の通路の先にある扉を開けて、中に入っていってしまった。



そのときである………


「ぎぃぃぃやぁぁぁあああああっっッッ…うごぉあおぉあぁぁおッ!!!」


それは……まるで喉から振り絞ったような…内臓が飛び出んばかりの悲鳴だった。

「うっ…うわあああああああああ!!!」

フーンは思わず叫び声を上げて尻餅をついた。腰が抜けてしまい立ち上がる事ができなかった……

「う…ううう……」

引き返すかどうか…フーンはそれを考えていた。しかし…フーンにもプライドがあった。今まで物事を冷静に対処し、犯罪を犯してきた彼は…こんな所で怯え、逃げ出すことが出来なかったのだ。

「うっ…ちくしょう! クソや野郎どもオオオオオオ!!!」

フーンは物凄い速さで左の通路に行くと、そこの扉を思い切って開けた!!


「…………!!」


そしてフーンはゆっくり目を開けた。どうやら正解の扉だったらしく…何も起こらない…しかし……

「ま…まただ…また分かれ道……」

そう、そこには再び分かれ道の廊下があった。しかも今度は4つに分かれている…

(だ…駄目だ……もう駄目…! 今度は4分の1の確率……正解は一つだけ、それ以外は死……うう…ああああ………)

フーンの耳に…あの凄まじいフサの絶叫が響き渡る……死刑執行の部屋ではどんな風に殺されるのか…腕を引きちぎられるのか…腹を斬られるのか…ギロチンか? 電気椅子か? 毒物か!!??

「アアあああああああああ!!!うおああああああああああああ!!!」

ついにフーンの精神は断ち切れた。余りの恐怖に体中はすくみあがり…涙と、よだれと、小便がとめどなく溢れ……力なく…その場にうずくまるしか無かった。
* Re: 脱出不可能。 ( No.4 )
 
日時: 2007/09/09 01:42 メンテ
名前: ???

その時…フーンの後ろに誰か来た。フーンが振り返ると……それは看守だった。

「囚人番号63番!! 脱獄しようとは不届きな奴だ!! 来いっ!! 懲罰房行きだっ!!!」

看守はフラフラのフーンを連れて行った。こうして脱獄は失敗に終わったのだった。



その数時間後…場所は変わり、所長室…

「ご苦労様です。フサ所長…今回も名演技お見事でした」

看守の一人が拍手をしながら言う。

「いやいや、僕の演技など大した事は無いさ。この刑務所から脱獄者がまだ一人も出ていないのは、君たち看守がこの『廊下の部屋の脱獄防止法』を発案してくれたおかげさ」

所長室で椅子に座りながらフサは笑う。そう…フサは囚人では無かった。この刑務所の所長だったのである。

あの道の分かれた廊下は、実はどの通路の扉を開けても死刑台に続く扉など無かったのである。全てが正解の扉だったというワケだ。

まず、この刑務所は囚人の脱獄防止のために、新しくやってきた囚人をワザと鍵の壊れた牢屋にぶち込み、例の『廊下の部屋に』誘い込む。

最初の二つの分かれ道の廊下は、左側の通路の扉には鍵がかかっており、入れないようになっている。つまり…あの『廊下の部屋』に足を踏み入れた囚人は皆、右の通路の扉を開けるしかないのである。もっとも今回の場合は、フーンが勝手に右を選んでくれたが…

そしてその扉を開けて、3つの分かれ道がある所でフサは囚人服を着て待ち伏せておく。囚人が来たら、フサは同じ囚人を装って話しかけた後に適当な扉に入り、叫び声を上げる。

囚人は恐怖に駆られて逃げ出すか、それとも今回のように勇気をふりしぼって突っ込むが、やはり恐怖で動けなくなるかのどちらかである。

ちなみに…この『廊下の部屋』は、どんなに進んでも出口は無い。しばらくすると行き止まりがあるだけだ。
* Re: 脱出不可能。 ( No.5 )
 
日時: 2007/09/09 01:42 メンテ
名前: ???

「まだ誰一人、あの部屋の秘密に気付くものは居ませんね」

「そうだな…しかし、いつかこの仕掛けもバレる時が来るだろう。その時は…また新しい脱獄防止法を考えてくれたまえよ」

「はい! 喜んで」

所長室にフサと看守の二人分の笑い声が木霊する……




この刑務所から脱獄できた者は…まだ誰も居ない。
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